IT(情報通信技術)社会における情報サ−ビスの拡充

東京工業大学附属図書館    
事務部長  笹川 郁夫 

はじめに

 インターネット社会が世界規模で進行しつつある急激な情報化は、我が国にもIT(情報通信技術)産業革命を引き起こすほどの影響をおよぼしており、 もはや「情報化社会」ではなく「情報社会」として捉える段階にきている。

 そして、今扉が開いた新しい世紀は、20世紀に得られた図書館を取り巻く学術情報アクセスに関する様々な知識を、より大きなくくりで整理する「知の統合」の世紀と位置付けるならば、この「知の統合の世紀」で、大学図書館は、これまでの歴史・文化を継承するのみならず、グローバル化時代における高度で快適な教育・研究・学習環境の支援を進めるために、高度な情報基盤機能の充実にも努めなければならないと考える。

T.IT(情報通信技術)戦略の動向

 アメリカは、ゴア副大統領時代に「スーパーハイウェイ構想」を打ち出し、日本では、1998年「高度情報通信社会推進本部」設置後、基本方針が出され、「紙」による情報の管理から情報通信ネットワークを駆使した電子的な情報の管理に移行し、21世紀初頭に高度に情報化された行政、すなわち「電子政府」の実現を目指すこととなった。

 ミレ二アム・プロジェクトは、「情報化分野」における3つのミッションを提言。
a.教育の情報化
b.電子政府の実現・・・2003年度(平成15年度)までの電子政府基盤の構築に向けて、政府認証基盤、セキュリティ技術開発、申請・届出等手続きの電子化を具体化。
c.IT21(情報通信技術21世紀計画)推進。
⇒ IT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)平成13年1月
 □e−Japan重点計画(平成13年3月IT戦略本部)
 IT戦略本部において、「IT基本戦略」に基づき、IT国家戦略としてe−Japan戦略が決定。
(文部科学省)
  ・教育用コンテンツの充実
  2001年までに、学校教育に活用できるよう、新しい教育課程の内容に即した各教科で使えるコンテンツ、博物館、図書館等の学習資源をデジタル・アーカイブ化して作成するコンテンツについての研究開発を行うとともに、それらの成果を踏まえつつ、2005年までに、研究機関等が有する最先端の研究成果を素材にした教育用コンテンツの研究開発を行い、成果の全国普及を図る。

 □IT市場の動き
  ・ICカード化
  IT革命とも呼ばれる新しい社会のスキームの変化に対応するため、急速な勢いでICカード化の整備が進められようとしている。
  例えば、公衆電話サービスにICテレホンカードが登場し、有料道路にもICカードを利用したノンストップ自動料金収受システム(ETC)が導入されるなど、日常生活の中にICカードが入り始めている。
  また、行政サービス、金融サービス分野では、住民基本台帳ICカードの希望者への交付やキャッシュ・デビット・クレジットカードのICカードへの切り替えなど、ICカードシステムの本格導入が相次いで決定し、2003年度の実現を目指す電子政府を始め、eコマースや携帯電話サービス等多くの分野でICカードが個人の認証等の必須ツールとして期待され、ICカード社会の到来が確実視されるステージとなっている。
  すでに、東工大、図書館情報大学では入退館システムにICカードを採用している。(三つの課題:@Cost A技術仕様 B耐用年数)

  ・マイクロバーコード
  次世代携帯電話からの図書の予約など

  ・次世代携帯情報端末
  2001年5月からNTTドコモによる次世代携帯電話サービスが開始、高速データ通信やカラー画像、動画などの扱いが容易。
   OPAC等の発信
   ICカード機能が融合
 □関連省庁の動向
 (総務省)住民基本台帳のICカード化、電子商取引(決済システム)
 (国土交通省)IC化による高速道54ヶ所の自動料金収受システム
 (警察庁)運転免許証のICカード化
 (経済産業省)ICカードの普及等によるIT装備都市研究事業
 (文部科学省)スーパーSINET構想 ⇒ 10Gビット超高速NET
          ITの進展に対応した国際著作権政策のあり方
        新しいITを活用した生涯学習の推進について
        〜IT講習ボランティアへの協力〜
        学術研究における情報化の推進
        〜情報関連組織の再編成〜
        電子図書館的機能の強化・充実
        今後の課題:何を、どう発信して行くのか!

U.大学図書館を取り巻く新たな情報環境

(1)NACSIS−CAT ⇒ New CAT
  UCSコード(世界符号化文字集合)=UNICODE[1995年JIS規格] ⇒ CJK 2万1千字
 各国MARC(世界21ヶ国)
  ・中国語DBの構築(北京図書館CHINA−MARC757万件の内47万件が整備されている)
  ・朝鮮・韓国語DBの構築(韓国国立中央図書館作成の韓国全国書誌約100万件の書誌レコード)

(2)NACSIS−ILL
〜Global ILL Frameworkを目指して〜
(背景)
 [CULCON(日米文化教育交流会議)外務省、文部科学省]
第18回CULCON合同会議における情報アクセスWGからの日米間ドキュメント・デリバリーの改善について提言を受け、米国側は、NCC(North American Coordinating Council on Japanese Resources)、日本側は国立大学図書館協議会「国際アクセス特別委員会」が対応することとなった。

 NCC及び国立大学図書館協議会は、DD改善を図るための具体的方策を議論するため、1999.2日米合同会議を開催し、「ILL改善を図るためのアクションプラン」を立て、ILL試行実験を開始。2001.1.31−2.1、実験評価を行うための総括会議を前回同様日本で開催。

 一方、NIIでは、日米間のILLシステムリンクを目指しており、NACSIS−ILLにISO−ILLプロトコルを実装する作業を具体化し、これに基づくOCLC間接続テストを行っている。

 グローバルILL/DDは、これまでの国際ILLに関する国立大学図書館協議会の議論を包括するものである。グローバルILL/DDは、ILLシステム間リンクが確実に実現されることを前提としているが、それを日米間に留まらない地球規模の枠組みで実現を目指すことから、グローバルILLフレームワーク(GIF:Global ILL Framework)と称することとした。

  ・米国OCLCとのシステム間リンク
   NACSISと国立大学図書館協議会「国際ILL/DDプロジェクト」は合同で全国5ヶ所の説明会を開催。米国OCLCとNACSIS−ILLの接続は、11月末を目処に完成予定。

  ・国立大学図書館国際アクセスプロジェクトの動き
  各大学図書館へグローバルILL/DDへの参加の呼びかけと運用するためのマニュアル作成及び複写料金決済のための仕組みについて関係機関と協議中。

(3)オンラインジャーナル編集・出版システム
  ・学内紀要及び研究報告書などのオンライン化とコスト削減 → JST
  ・SPARC(Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition)

(4)オンラインジャーナル
コンソーシアム契約:出版社毎に契約方針等が異なる
  ・学内ニーズとサービス方策 = 直接出版社との交渉
  ・マルチメディアジャーナル
   カラー画像、動画、音声など  流体力学会、プラズマ核融合学会などで先駆的試み
  ・Virtual Journal(IPAP Institute of Pure and Applied Physics) MS-Word Excel PDF Database
(5)OPACと各種DBとのリンク
  ・シラバスDB
  ・ブックコンテンツDB
  ・学位論文DB etc...
(6)学術コンテンツポータルシステム
   メタ情報とコンテンツとを統合して、自由にアクセス→統合認証機能

V.IT環境下における新たな図書館業務体制

(1)組織体制と事業体制
   旧体制 ⇒ 新体制
(コンセプト)
 □スタッフと上司が、立場に関係なく、築いて行く体制
 □若い人から直接上司に伝わる仕組
 □自分には関係の無いという事がない体制
 □係(掛)の垣根を越えた業務体制(プロジェクト体制)
 □徹底したCost分析の必要性
 □民間経営学の導入
 □アイディアの創出(利用する人のための発想)

・インフォーマルなネットワーク作り ⇒ オフサイドミーティング
・環境が変わってきた中で、自分がどれだけの事が出来るか!考える事が必要

(2)事業計画
 ・目標と課題の設定 = Commitment(目標が明確)
  例:目標をどう設定するか!
 *前提を今後五年間に「実施」する課題と「検討」する課題に分け、さらに、その中の解決すべき具体的課題の柱を大きく三つに分ける。
 □学術情報基盤の整備=「電子図書館的機能の整備・充実」
 □利用環境及び利用者サービスの充実・強化
 □事務の情報化、効率化、省力化

 @日本学術図書総合目録DBの整備(目録所在情報の遡及入力)
 A学内外を視野に入れた機動的相互利用を図るための「デリバリー・システム」の整備
 B電子ジャーナルの整備・充実
 C学内研究紀要等の電子ジャーナル出版化の推進(NACSIS電子ジャーナル編集・出版システム)
 D情報関連組織の再編成
 Eガイドラインに沿ったホームページの整備
 F大学の特色を生かした貴重資料等の電子化の推進
 G携帯電話(次世代、携帯情報端末)OPAC等の発信(I−BOOKサービス)
 H学生用学習図書、参考図書及び学術雑誌の拡充・整備(シラバスとのリンク)
 I情報リテラシー教育の支援(各学部ゼミ等への出前リテラシー)
 J留学生のための多言語利用案内の作成
 K書庫内資料のシフティング(書庫内資料のオープン化)
 L情報コンセントの設置及び情報端末の整備・拡充
 M一般市民への公開及び地域への情報開放
 N図書/雑誌の集中処理体制の整備
 O事務組織の再編成
 その他、クロスリンガル検索システムの導入、多言語DBの構築、貴重資料の保存対策 etc...

(3) 通常業務のシステム化による省力化の向上
 ・専門的知識を必要としない業務の外注化
 ・情報化による効率化の推進
 ・従来の定常業務の徹底見直し
 ・選書/発注から目録業務までの自動サイクル化=システム化
 ・サービスカウンター業務の外注化
 ・レファレンスDBの活用

  ※いずれも、係としての事業あるいは館としての事業、学内全体に関わる事業の企画書及び提案書の作成が最も重要。
  ※ポイント
 @計画書作成(背景、課題(現状)、目的・必要性(提案)、効果、予算)+ポンチ絵、統計(折線グラフ等)
 A「出来ないとしたら、出来るようにするためには、どうしたら良いか! 知恵を出す」

W.図書館業務の専門性と学内外情報システムとの連携

 ・インフォメーションバリアフリー化
 〜エンドユーザ主体の図書館アクセスを目指す〜

 大学図書館基準では、「大学図書館に課せられた高度の専門的業務を処理するためには、特に専門職員を配置することが必要である」としている。また、平成3年に大綱化された「大学設置基準」においても「専門的職員その他の専任の職員を置く」と定め、図書館機能を発揮させるものとして資料の提供や設備の整備のみならず専門的職員の配置を重視している。

 しかし、大学図書館における「専門職」としての業務内容は時代の流れとともに大きく変化し、教育・研究に必要な資料の収集、整理、保存、参考調査、利用(閲覧・貸出)といったこれまでの専門的業務のみならず、情報通信技術の進展に伴う学術情報の多様化に適合した新たなサービスを提供する事が喫緊の課題となっている。
 したがって、今後は、これまでの専門的業務知識と情報通信技術の知識を融合させた新たな「学術情報リテラシー(研究・学習のための情報戦略室)」サービスを展開する必要がある。具体的には、@学内シラバスDBとOPACのリンク、AOPACと研究成果DBとのリンク、B他大学DBとのリンクなど利用者への情報の共有化=インフォメーションバリアフリー化を図る。

最後に、例えば東京大学情報基盤センター図書館電子化部門で出された「ネットでアカデミック」エキスパート版のように大量の情報の中から適切な文献を効率的に探し出すコツや各分野での文献調査に役立つデータベースをイラストや図版を使ってわかりやすく作るような「企画アイディア」を出して行ってほしい。

以上


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