この本は、最初の出版が昭和 9年(1934)、かなり古いものである。もともとは、 ラジオ放送のための講義録だった、という。 「法句(ほっく)経」とは古代仏教の基礎的文献、そのなかには日常生活への指 針が数多く含まれている、といわれる。こうした内容について著者は、僧籍の身 のわりにはかなり自由に説明している。しかも、その文章は口語体。だから「講 義」とはいっても、人生について先達のお話、といった感じで親しみやすい。放 送当時たいへん評判になったそうだが、もっともだと思う。60年後の今よんでも、 なお新鮮なのである。一回ごとにきちんとした区切りがあるのも便利である。 私が初めて本書に接したのは昭和30年代?角川文庫版であった。第四講「有る こと難し」、第九講「自己(おのれ)を描きて誰に寄るべぞ」、などには特に感 銘を受けたものである。その後しばらく店頭で見かけなかったが、数年前新しい 形で復活した。嬉しいことである。