『エミ−ルと探偵たち』、『飛ぶ教室』の作者といえば、ご存知の向きも多か ろう。が、単なる児童文学の書き手ではないぞ。れっきとした詩人にして小説家 なのだ。なかでも代表作と見なされているのがこの長篇。軽妙な文体だから読み やすいし、おまけに栄養がある。刊行は1931年。当時、ドイツ国内では言論の自 由が踏みにじられ、世の中はファシズムへ向かって突き進んでいた。人びとはゆ がんでゆく社会のなかで、腐敗と汚辱にまみれていた。にもかかわらず、青年フ ァ−ビアンは誠実な生きかたを貫こうとする。きみだったら、どうする?会社を クビになっても、親友が自殺しても、恋人が裏切っても、人類が理性をもつ日を 待ちつづけ、時代に流されまいと力尽きるまで頑張れるか? なお、1933年にナ チス政権が成立すると、ケストナ−の作品は次々と発禁になった。そして、ファ −ビアンが予言したように、「無知」の時代がやってきて、「途方もない大きな 戦争」が始まった。