この本は最初、第二次大戦直後の昭和22年、児童文学雑誌の「赤とんぼ」に 掲載された。当時の日本は連合軍の占領下にあり、出版物には検閲が施されてい た。この作品は戦争を扱っているという理由から、一度は執筆禁止の処分を受け ている。今日読めば解るように、この作品は少しも戦争を賛美したものでないば かりか、むしろ戦争の愚かしさを訴える、人間のドラマを描いたものである。 作者の思想性は明確に表れているが、それを、水島上等兵は生きているのだろ うか、それとも脱走兵となって、ビルマの山野を彷徨っているのではなかろうか という、推理小説もどきのサスペンスを交えて、楽しく読ませる読み物に仕立て ている。児童向けの雑誌に掲載されはしたが、ビルマと日本の比較文化論に花が 咲く場面もあったりして、成人が読んでも十分読み応えのある、高い普遍性を持 つ作品となっている。