著者の和田重正氏は既に故人であるが、新しい教育の実践を目指して山の中に 私塾を造り、「よく生きる」にはどうすればいいか身をもって示した人である。 氏は、人間の精神活動をも含めて一切の現象は一つの大きな「いのち」の現れで あるという。そして、「よく生きる」とはこの「いのち」の流れに従うことだと 主張する。さらに、人間の存在理由は、このような「いのち」に対して「自覚」 をもつ生命体の出現にあると主張する。また、このような「自覚」が深まるにと もない、子を思う母のような無限の優しさと強靭さが発揮されてくる。混迷を深 めている現代社会を救う唯一つの道はこの「母の心」に目覚めることだとも主張 している。 このようなことを、著者は非常に解り易く、切々と語っている。一見何でもな いような語り口であるが、よく読むと体験に裏打ちされた味わい深い文である。 新しい時代への指南書というべき本である。