和 田 重 正 著
『母の時代』(地湧社)

  著者の和田重正氏は既に故人であるが、新しい教育の実践を目指して山の中に
私塾を造り、「よく生きる」にはどうすればいいか身をもって示した人である。
氏は、人間の精神活動をも含めて一切の現象は一つの大きな「いのち」の現れで
あるという。そして、「よく生きる」とはこの「いのち」の流れに従うことだと
主張する。さらに、人間の存在理由は、このような「いのち」に対して「自覚」
をもつ生命体の出現にあると主張する。また、このような「自覚」が深まるにと
もない、子を思う母のような無限の優しさと強靭さが発揮されてくる。混迷を深
めている現代社会を救う唯一つの道はこの「母の心」に目覚めることだとも主張
している。                               
 このようなことを、著者は非常に解り易く、切々と語っている。一見何でもな
いような語り口であるが、よく読むと体験に裏打ちされた味わい深い文である。
新しい時代への指南書というべき本である。

曽 我 日出夫(教育学部・知識経営講座)

ラベルの記号 049.1:Hah