「灰色のバス」とは、ナチス・ドイツが第二次大戦下に行った障害児・者の 「安楽死」政策、「T4作戦」で、殺戮対象者の移送に使われた車両のことであ る。本書は、「フランツ・サ−レス・ハウス」という障害児施設を舞台に、何と かして収容者を虐殺から免れさせようとする職員の必死の努力と、ナチス当局と の生々しい駆け引き、そしてそれも空しく犠牲となっていった人達の様子を赤裸 々に描いたものである。ナチス追及で知られるドイツにあっても、「安楽死」政 策については、ニュ−ルンベルク裁判などで一部明らかにされたものの、その後 長らくタブ−視されていた。それがようやくここ十数年来、各種公文書の公開も 相俟って、その全貌が明らかにされつつある。普通のドイツ人の見せる勇気と良 心、それをいとも簡単に押し潰していくナチス政策の悪夢を通して、ファシズム と戦争という状況下で現れる人間の本質というものを考えさせられる本である。