カレル・ヴァン・ウオルフレン 著
『人間を幸福にしない日本というシステム』(毎日新聞社)

 日本というシステムは、責任の所在がきわめて曖昧な仕組みで動いているとい
う。正しい方向を決めることもできなければ、間違った政策にブレ−キもかけら
れない。そのシステムの基幹となる政府は、省益を最優先する官僚の集合体にす
ぎない。日本は、船頭がいない巨人タンカ−のようなものだと著者はいう。その
なかの私たちも、実はそのぬるま湯にどっぷり浸かっているのではないだろうか。                                  
 本書の著者はオランダ人で、日本社会を厳しい目で、適切に分析するジャ−ナ
リストとして知られる。代表作に『日本/権力構造の謎』があり、本書は眠れる
日本人に対する、その普及版と位置づけられなくもない。自らが拠って立つ社会
の根本や己の基層を、厳しく冷静に分析することはなかなか難しい。どこかに肯
定的な見方を残したり、逆に極端に批判的な見方をしがちである。本当の民主主
義の糸口が、個々人の社会に対する正しい認識であるとすれば、別の切り口の日
本と自分を見つめることも重要である。

小 林   久(農学部・生物生産学科)

ラベルの記号 302.1:Wol