ライト兄弟が世界初の飛行を行ったよりも12年も前の1891年(明治24年)、四 枚羽のプロペラをゴム紐動力で動かして鳥型飛行器の模型を空に飛ばした日本人 がいる。本書の主人公二宮忠八である。 小さい頃から空に憧れた忠八は、独創的な凧を揚げることから始まり、鳥のよ うに空を飛べる器械の設計に独学で没頭した。模型飛行機をプロペラで飛ばすこ とに見事に成功した後、実際に人間が搭乗する飛行器の製作を志す。玉虫型飛行 器の設計図を作り、所属する軍隊を通じて軍用飛行器考案の上申書を旅団長に提 出するが却下。軍籍を離れて独力で研究を貫こうとするが、苦労の甲斐なくライ ト兄弟に先を越され挫折する。 独創的な研究が日本に少ないのは、優秀な頭脳が日本にいないからではなく、 それを育てる環境がないことによる。猿真似文化が巾を利かす日本の過去と現在 および多分将来にもわたるであろう状況に対する痛烈な批判の書ともなっている。