徳川御三家の一つであった水戸藩での、江戸末期における天狗党事件を描いた ものである。 水戸藩の過激な尊皇攘夷論者は、 1860年(安政 7年)桜田門外で大老井伊直弼 を暗殺し、その後1864年(元治元年)藤田小四郎らを中心とした天狗党は筑波山 に挙兵した。彼らはやがて武田耕雲斎を総大将とする千余名の勢力となり、京都 にいた徳川慶喜を頼って朝廷に直訴すべく、上野、信濃、美濃と、幕府軍と激戦 を交えながら越前に入った。 しかしながら慶喜に見捨てられてついに加賀藩に降伏、敦賀の鰊蔵に幽閉され 斬首 352名という過酷な刑罰を受けて終る。 水戸市松本町の回天神社境内に、当時の鰊蔵のうちの一棟が移築復元され、む なしく散った志士達の墓とともに、ひっそりとたたずんでいる。 綿密な調査に基づいた歴史物語を得意とする吉村氏の力作で、幕末の水戸藩を 知るための恰好の読み物である。913.6:Yos