地図は、これまで地図学・地理学・歴史学の研究対象であった。本書のテ−マ は、社会と空間の関係を、地図を媒介として社会学的側面から考察することにあ る。地図とは、自分の眼で見ることのできない広い世界(社会)を可視的に表現 するものであり、作成の過程で思想や技術が反映される。 近世までは、情報量も少なく、自分達の社会を中心とし、宗教的信念や空想を 交えた想像性豊かな世界像が描かれた。近代になると、十分な情報と正確な測量 ・作図の技術により、宇宙から眺めた地球表層と類似の地図が描かれるようにな った。想像性を排除したかに見えるこの「普遍的」世界像も、実はヨ−ロッパ的 国民国家観や資本主義の考え方に基づく世界像なのである。世界地図上に描かれ た国民国家の枠組(国境)は、民族や宗教の社会集団の空間とは合致しない。国 際化・情報化の進んだ現代では、「地図を超えた社会」の存在を想像しなければ ならない。