若 林 幹 夫 著
『地図の想像力』(講談社)

  地図は、これまで地図学・地理学・歴史学の研究対象であった。本書のテ−マ
は、社会と空間の関係を、地図を媒介として社会学的側面から考察することにあ
る。地図とは、自分の眼で見ることのできない広い世界(社会)を可視的に表現
するものであり、作成の過程で思想や技術が反映される。          
 近世までは、情報量も少なく、自分達の社会を中心とし、宗教的信念や空想を
交えた想像性豊かな世界像が描かれた。近代になると、十分な情報と正確な測量
・作図の技術により、宇宙から眺めた地球表層と類似の地図が描かれるようにな
った。想像性を排除したかに見えるこの「普遍的」世界像も、実はヨ−ロッパ的
国民国家観や資本主義の考え方に基づく世界像なのである。世界地図上に描かれ
た国民国家の枠組(国境)は、民族や宗教の社会集団の空間とは合致しない。国
際化・情報化の進んだ現代では、「地図を超えた社会」の存在を想像しなければ
ならない。

朝 野 洋 一(人文学部・社会科学科)

ラベルの記号 290.3:Chi