香 原 志 勢 著
『人類生物学入門』(中公新書)

 人間の科学は対象が人間であるために、しばしば倫理的規範と接触しやすい。
人間の本性を知ることの困難さがそこにあり、その探究に当たってはつねに謙虚
な姿勢が求められるが、著者は人類が動物の進化のある極点に到達していること
は素直に認めるべきであり、この点にも懐疑的な“謙虚さ”はむしろ変な価値観
にとらわれているのだと喝破する。その上で、人類を「文化をもつ動物」「心の
動物」と捉えつつ、そこに至る動物の歴史をたどり、人類の特異性を生物学的に
分析する試みを果敢に展開している。我々の動作や表情、音声によるコミュニケ
−ションなども身体各部の構造及び人間文化と関わりの深い環境と密接に関連し
ていることが多面的に語られる。本書は70年代に書かれており、その後同じ著者
による類書が数冊出ているが、本書はいまだに古さを感じさせない内容をもって
いる。

松 澤 安 夫(農学部・生物生産学科)

ラベルの記号 469:Jin