著者の沼田眞氏は、元千葉大学教授の植物生態学者であるが、現在は日本自然 保護協会会長として自然保護の考え方の普及に当っており、『自然保護という思 想』(岩波新書)を 3年前に著している。その自然保護の理論的基礎を与えるの は生態学であり、その日本での発展はつまるところ子供の頃から自然に親しむこ とで育まれる生物や山、海、気象などへの関心が土台となる。 本書は、上述の新書よりもかなり前に出版されたロングセラ−であるが、私た ちの身のまわりの植物、路傍で踏みつけてしまっているような草であっても、 “その植物がそこに生育していることは、その植物にとっての多様な環境条件が 整えられてはじめてその場所に育つことができた”と見るべきことを教えている。 つまりその植物はその場所でかけがえのない独自の生活を営んでいるのである。 自然と人間の共生とは、そのような眼差し(まなざし)で生物の生き方を愛する ことである。