本書は、科学史・医学史の精鋭である著者が全霊を傾けて著した警世の書であ る。最近、国会でも審議されている臓器移植法案での焦点である脳死と臓器移植 について、推進派の論拠を次々と批判しつつ、「死の自己決定権」という医療倫 理上の概念を浮かびあがらせ、個人という存在に死を限定して考えていく思想そ のものを疑問視する。このような個人の個別な死に対して、著者は「共鳴する死」 のあり方を問い直している。親しい人々に囲まれながら、ゆったりとした時間の 経過とともに死にゆく人々とともにその人の「死を生きる」体験の重要性を投げ かけている点が、従来の生命倫理学ではみられない貴重さである。まさに生命と は何か、死とは何か、そして「生きる」とはいかなることかが問われている現在、 このことに関心をもつすべての人々に読まれるべき運命をもつ書である。