本書は、1980年に日本で翻訳が出され、その後、教育学や社会学、心理学だけ でなく、思想の分野にも大きな影響を与えた。 内容は、「子供期へのまなざし」「学校での生活」「家族」の三部から構成さ れている。 作者のアリエスは子供の存在が自明でないこと、子供と大人の関係が「世界」 を反映していることを明らかにし、また、現在の公教育制度を相対化してくれる。 哲学者の中村雄二郎は「近代家族や近代学校以前のあけっぴろげな性風俗やす さまじい校内暴力の姿も描き出しているので、今日の非行や校内暴力を見る眼に ゆとりを与えてくれるはずである」と書いている。 中世末から近代にかけての子供、学校、家族を扱ったユニ−クな歴史書である が、発達論的子ども観中心の現代において、もう一つの子ども観の存在を示唆し てくれる。 2段組400ペ−ジ近い厚い本は手強いが、挑戦してみる価値は十分あると思う。