本書は1973年に出版された社会言語学の入門書であるが、私たち日本人が外国 語や外国文化を理解する際に直面する様々な問題を取り上げ、私たちが気付かな い様々な誤解を指摘するとともに、それらの生ずる所似を解き明かしている点で、 日本人のための異文化理解の入門書でもある。 言葉は、混沌とした無秩序な世界に人間にとって有意義と思われる仕方で一定 の秩序を与える働きをもっている。このように私たちの世界認識の手がかりであ るから、言葉の構造や仕組みが違えば認識される対象も当然変わることになる。 従って、英語の「lip」と日本語の「唇」の指す範囲が異なり、前者に髭が生え後 者に髭が生えなくても何ら不思議はない。著者の豊富な外国体験が活きている。 本書はこのほか日本語における人称代名詞の用法を分析し、日本人が自覚しな い人間関係の体系を解き明しており、日本と英仏を比較した優れた比較言語文化 論である。