竹 内 敏 晴 著
『ことばが劈かれるとき』(ちくま文庫)

  本書の標題にある「劈(ひら)く」は、外科的な意味で喉(のど)を切り開く
の意である。現代人の多くが何らかの意味で自分のことばを失っていると著者は
言う。そして、そのふさがった喉を切り開くメスが人間の心だけと言うのである。
 著者は竹内演劇教室の主宰として、また宮城教育大学の教師として、ことばと
からだと心の関係を長年問い続けてきた経験をもつ。氏によれば、われわれは、
長年のゆがんだ社会生活の結果として本来の声(あるいは、ことば)を失ってい
るという。社会生活のゆがみはわれわれのからだと心をゆがませ、そのゆがみが
声(とことば)をゆがませていると言うのである。このような状況を打破する鍵
を握るのが「こころ」で、結局われわれは、他人との関わり方やコミュニケ−シ
ョンのあり方に対してもつわれわれ自身の認識のゆがみを変えてゆかなければ、
真のことばを回復することはできないと著者は結んでいる。

長 澤 邦 紘(教育学部・英語教育講座)

ラベルの記号 804:Kot