平安時代までの、主に文学作品に見られる夢の用例を取り上げて、古代人の心 性を分析しようとする。現代人よりもはるかに多様でかつ大きな価値を夢に見出 していた古代人たちの世界観を次々と分析していく西郷氏の見事な手腕は、読み 手の気持ちを一瞬たりともを飽きさせることなく、一気に読了させてしまう。 文学的にすぐれた感性と、文学のみにとどまらない広い視野とが共存しているこ とも数多くの読者を獲得してきている要因と言えよう。 日本古代の精神性、古代史・古代文学の特質、夢の意味について興味のある人 に強くすすめたい。章立ては、「夢を信じた人々」「夢殿」「長谷寺の夢」「黄 泉の国と根の国」「古代人の眼」「蜻蛉日記、更級日記、源氏物語のこと」の 6 章で「夢を買う話」「夢あわせ」という補論が付いている。