山田真は、開業の小児科医であるが、この本では彼の実生活に根ざした具体的 な「医師」としてのアドバイスだけではなく、障害児の娘を通しての社会・行政 ・教育への草の根的な活動をもとに「子どもを育てるとはどういうことか」とい う基本へ目を向けさせてくれる内容が豊富に語られている。 何かというと母親へ子育ての全責任を押しつけてくる文化社会的な規範が根強 く存在する日本の育児現状への批判、また母親自身ももっと柔軟に子どもとつき あうべきではないのかという視点、そして、男性や社会のかたくなさが育児での 様々な困難性を増している原因ともなっているのではないか、という意見。さら に子育てに主体的に関わった経験のない男性の小児科医が容易に発する「愛情を 注ぐべき母親」という無責任なメッセ−ジへ対する批判は、同業でしかも障害児 の娘をあずける保育所を自分で組織化し、かつ週に1日は「保父」をしてきた筆 者ゆえに心からうなずけるものである。