本書は参考図書が数少ない金属工芸の分野で、難解と思われている金属学を中 心において金属工芸を解説している。この著者の専門分野は、鋳金であるが、内 容は「なぜ合金にすると溶ける温度が下がるのか?」などとくに金属工芸家の疑 問に答えてゆこうとするものである。金属工芸は、技法上から彫金・鍛金・鋳金 の三分野とその複合領域からなり、その技術の解説や金属に関する内容は複雑で 一筋縄ではゆかないのが常である。 本書は金属工芸の基礎的事項として金属学をとらえ、金属の塑性加工・金属の 合金そして溶解と鋳造など前述三領域の特徴的な疑問や不思議にわかりやすく答 え解説している。又、37項目の註として、元素・原子から金属工芸の伝統的技法 とくに日本古来の金属着色法などにも視点を拡げ、金属学の解説や内容に新鮮さ と親しさを与えている。工芸家のためだけでなく金属の不思議に思いする者にさ らに興味を深くさせてくれると思う。