今さらグリム童話なんて、というなら、この本で思い出してみよう。とても残 酷なお話だったのだ。お菓子の家でグレ−テルは、魔女を焼き殺す。あれって、 やっぱり殺人でしょ。意地の悪いお妃は、白雪姫の(だと思って)肺と肝臓を食 べてしまう。ああいったむごたらしさが、ナチスにつながったという説もあるく らい。おまけに封建的で、非科学的。考えてみれば、けしからん話ばかりではな いか。 ところがどっこい、著者の野村氏は、グリム童話の否定的側面を列挙した上で、 それらをひとつずつ、ていねいにひっくり返していく。ほんとは学問的な目配り が利いてるんだが、そうと気づかないくらい、わかりやすいことばで書かれてい るから、安心して手にしよう。昔話というジャンルは奥行きが深い。語りつがれ るだけの理由がちゃんとある。幼いころ無邪気に読んで(聞いて)、その後すっ かり忘れてしまった人も、ああ、そうだったのか、と納得すること請け合いの一 冊。