野村

『グリム童話子どもに聞かせてよいか?』(ちくま学芸文庫)

 今さらグリム童話なんて、というなら、この本で思い出してみよう。とても残
酷なお話だったのだ。お菓子の家でグレ−テルは、魔女を焼き殺す。あれって、
やっぱり殺人でしょ。意地の悪いお妃は、白雪姫の(だと思って)肺と肝臓を食
べてしまう。ああいったむごたらしさが、ナチスにつながったという説もあるく
らい。おまけに封建的で、非科学的。考えてみれば、けしからん話ばかりではな
いか。
 ところがどっこい、著者の野村氏は、グリム童話の否定的側面を列挙した上で、
それらをひとつずつ、ていねいにひっくり返していく。ほんとは学問的な目配り
が利いてるんだが、そうと気づかないくらい、わかりやすいことばで書かれてい
るから、安心して手にしよう。昔話というジャンルは奥行きが深い。語りつがれ
るだけの理由がちゃんとある。幼いころ無邪気に読んで(聞いて)、その後すっ
かり忘れてしまった人も、ああ、そうだったのか、と納得すること請け合いの一
冊。

小 泉 淳 二(人文学部・人文学科)

ラベルの記号 940.28:Gri