野 澤   謙・西 田 隆 雄 著
『家畜と人間』(出水書店)

 1万数千年前以降、人類が達成した野生動物の家畜化は、ヒトという動物のそ
の後の運命を決定づける人類史上画期的な出来事であった。文字通り、livestock 
である家畜の獲得によって、食生活のみならず衣・住、交通・運搬、さらに精神
生活の面でも人類が得た恩恵は計り知れないほど大きかった。しかしこのような
家畜が私たちの眼前からほとんど姿を消して既に久しい。本書の冒頭にもあるよ
うに、私たちはそれらを生産した動物への何らの連想もなしに、乳肉卵を毎日大
量に消費している。「われわれは“現代人が健康に生きているということの意味
内容”を、“他の生命を奪うという行為を不可欠の前提にしてわれわれは生きて
いるのだということ”を、はっきり理解すべきではないか」。   
 本書はこのような視点に立って、各家畜の起源から品種分化の変遷、ヒトの生
活文化との多様な関わりについて述べ、家畜文化史としても豊富な内容を含んで
いる。野生動物や自然の保護への関心が高かまっているが、もっとも身近である
はずの家畜という動物には無関心の人がわが国では意外に多い。そういった人々
にこそ一読を薦めたい本である。その主張を単に情緒的で、ときにははた迷惑な
美しい言葉の振り回しに終わらせないためにも。

松 澤 安 夫(農学部・生物生産学科)

ラベルの記号 645:Kac