畜産を家畜の側からとらえた身構えないで読める好個の読本である。著者(正 田陽一)は東京大学農学部家畜育種学教授、ついで茨城大学農学部動物育種学教 授を務めた家畜育種学の権威である。家畜に関するエピソ−ドを読み進むうちに 自然と家畜学、今でいう動物生産学の常識を身につけることができるように書き 込まれているのは、著者の動物に関する博識によるものであろう。 博識ぶりは、例えば「似絵・写絵・写生─日本の絵画に描かれた家畜」という 章を一瞥しただけで分かる。東京国立博物館蔵の「駿牛図巻断簡」を引いて「天 角地眼鼻たれて、一石六斗二升八合」の何たるかを説明し、黒毛和種の基になっ た日本の在来牛の名牛を彷彿とさせてくれる。同じ章でヤギとヒツジの別を杉山 寧画伯の絵画からさりげなく教えてくれる。何とも心憎い書物である。 生物生産学科特カリ2の学生は、阿見に進学する前にぜひ一読することを薦め る。