尾 藤 正 英 著
『江戸時代とはなにか』(岩波書店)

 江戸時代は近代社会である、といったら、みなさんはさぞ驚かれるにちがいあ
りません。今まで皆さんは、鎌倉時代から江戸時代の終末までの約700年を封
建社会とみ、明治維新を迎え、西欧の文明が導入されて「文明開化」してから近
代社会になった、というふうに理解してきたと思われるからです。      
 しかし、著者の説くところは違います。これまで日本史でいう古代と中世とが
だいたい同じ原理で展開されたのに対して、近世と近代とがやはりだいたい同じ
原理で展開したのだ、と述べているのです。つまり、近世の社会(その初期とし
ていわゆる織豊政権の時代を含む江戸時代)は、わが国の近代国家が形成される
過程として位置づけられているわけです。しかも、この国家を形成するにさいし
て、外来文明の影響はむしろ微弱で、むしろ内発的な社会発展の活力にこそ目を
向けるべきだし、そうした社会発展の活力を生み出したのは、職分の観念とそれ
に基づく政治・社会制度の成立(「役」の体系)に求められる、というのが著者
の主張です。                              
 現代における近世史研究の第一人者というべき著者による、これまでの江戸時
代像を一新する刮目べき書物といえましょう。               
 きわめて高度の内容ながら、平明にして達意の文章で書かれているこの名著の
熟読玩味をおすすめします。

鈴 木 暎 一(教育学部・社会科教育講座)

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